車の技術

日産スカイラインGT-Rを名車にした世紀の発明 アテーサE-TSとは?

日産が誇る世界的な名スポーツカー「GT-R」。

そのGT-Rの高い走行性能を支えた日産独自の技術「アテーサE-TS」をご存知ですか?

今回は日産GT-Rを名車にした革新的な機能、アテーサE-TSについて解説したいと思います。

日産スカイラインGT-Rを名車にした世紀の発明「アテーサE-TS」

日産アテーサE-TSとは

「アテーサE-TS」とは、日産が開発した「電子制御トルクスプリット四輪駆動システム」です。

システムは、ベースが後輪駆動となっており、後輪のタイヤが横滑りや空転したときに前輪が駆動するようになっています。

前輪と後輪の駆動配分は0:100から50:50など、状況に応じて可変し、前輪への駆動力は、トランスファーと呼ばれる機構の内部にある湿式多板クラッチによって決まります。

このクラッチは油圧ユニットによって押し付けられ、車輪1つ1つにある回転センサーとGセンサーからの情報に基づいて油圧ユニットへ指示が送られます。

アテーサE-TSの開発は1985年頃から行われ、1989年に「スカイラインGT-R(BNR32)」で初採用されました。

日産アテーサET-Sは何がすごいのか?

アテーサE-TSはコーナリング時のオーバーステアやアンダーステアを防ぐことができる絶妙な駆動配分を自動で制御することができます。

これにより、ハイパワーの車も、安定したコーナリングができるようになるのです。

さらに、急ブレーキなどの際にはABS作動タイミングをきめ細かくコントロールすることもでき、安全性の向上にも役立っています。

その効果はコーナリング時に加速した時に最もわかりやすいでしょう。

通常、後輪駆動車はコーナリング時に速度を上げすぎると前輪が内側に巻き込まれてスピン状態に陥ってしまう、オーバーステアという現象が発生し、一方で前輪駆動車は車体が外側へ引っ張られて曲がり切れなくなる、アンダーステアという現象が発生します。

アテーサE-TSが搭載された車の駆動方式は4WDとなりますが、絶妙な駆動配分を自動で制御するため、オーバーステアもアンダーステアも起きない状況をつくりだせるのです。

スカイラインGT-RはこのアテーサE-TSのお陰で無駄のないコーナリング性能を実現出来たといえます。

これは高性能エンジンを搭載したモータースポーツなどで武器となったほか、街乗りでも安定走行と安全性を高める役目を果たしました。

アテーサE-TSはどのように誕生したのか?

アテーサE-TSは、1985年の東京モーターショーに展示されたコンセプトカーCUE-Xに初めて原型となる試作システムが搭載されました。

そのころ、新しい8代目スカイラインの開発が始まっていましたが、その前に発売された7代目のスカイラインはかなりの不評でした。

若者100人以上に「スポーツイメージのある車は?」と聞いても、スカイラインの名前は一切出てこなかったほどです。

デザインや性能面も不評でしたが、何より当時開催されていたグループAという市販車に近い規定のレースで7代目スカイラインは設計上不利とされており、そのイメージを更に悪くしていたのです。

そのため8代目のスカイラインは、7代目のラグジュアリー路線から脱却し、走行性能を高める事を重点において開発されました。

さらに開発者はレースで勝つことを目指し、かつてのスカイラインに設定していたスポーツグレード、GT-Rを復活させることなったのです。

そこで、開発陣はグループAレースの規定に基づいて、パフォーマンスの最大限を発揮する仕様としてR32 GT-Rは2.6リッターのエンジンと四輪駆動を採用することになったのです。

当時、モータースポーツでは4WDを含め、フロントが駆動するマシンは曲がらないという定説がありましたが、状況によって駆動配分を変更することでコーナリング性能を最適化できるシステムとして、アテーサE-TSを採用することでそれを解決しようとしたのです。

こうしてアテーサE-TSは1989年のスカイラインGT-R(R32)に初めて採用。
圧倒的なコーナリング性能を誇ったR32はグループAレースで連戦連勝の無敗記録を残し、「GT-R伝説」を打ち立てるに至ったのです。

アテーサE-TSの採用車種

アテーサE-TSはその後のGT-Rシリーズにも継続して搭載されましたが、日産の他の車種にも広く採用されています。

初代セフィーロ(1990年発売)にはアテーサE-TSが装備されており、エンジンは違いますがR32 GT-Rと同様のスポーツチューニングが施されています。

名称もアテーサクルージングから変更され、1992年後期モデルではSE-4という名称に変わりました。

2代目シーマ(1992年)には、セフィーロやGT-Rとは異なり、高級セダンの安全性を重視したチューニングが施されたアテーサE-TSが採用されています。

スポーツチューンドのアテーサE-TSを区別するため、「S-four」という専用グレードが付けられました。

シーマは2000年代に販売された4代目までアテーサE-TSが搭載されていました。

また、1990年代中頃に販売された4代目レパードやステージア、9、10代目のセドリック、10、11代目のグロリア、7、8代目のローレルにもアテーサE-TSが搭載されていました。

2000年以降はフーガがアテーサE-TSを搭載していましたが、残念ながら2022年8月に販売が終了。

13代目スカイラインはハイブリッド車にのみアテーサE-TSが搭載されています。

GT-R伝説の立役者「アテーサE-TS」は凄かった!

アテーサE-TSの誕生の影にはスカイライン復権、レースで勝つための熱いこだわりが隠されていました。

当時は様々な電子制御システムが誕生しましたが、進化を続けながら現代でも採用し続けられているアテーサE-TSは本当にすごい技術ですね!

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レイン@編集長
F1・モタスポ解説系YouTuber。 レースファン歴数十年です。 元アマチュアレーサー。 某メーカーのワンメイクレースに5年ほど参戦していました。
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